ここんちのおじさんとおばさんは、あたしのことをオスだとばかり思っていたらしい。だから、あたしが観葉植物の葉っぱに卵をうみつけたときはびっくりしたらしく、慌てていた。
頭を逆さにし、カマでしっかり体を支え、踏ん張って卵を産みつける時はそりゃあもう命がけだった。終わったあとは精も根も尽き果てて、しばらくは息をするのも苦しくて気を失ったみたいになっていた。
でも、おじさんたちの声は聞こえていた。「ネットで調べたら、カマキリって卵を産みお終わったら死ぬって書いてあるよ」とおじさんが言ったので、あたしも、そろそろだと思った。そのうち夕方になると、二人はどこかにでかけてしまった。
窓の外が暗くなるころ、二人は帰ってきて、あたしのことをじっとながめていた。死んでる? おばさんの声がして、いや、まだ生きてるみたいだ、とおじさんが答えた。
そいであたしは、葉っぱの上で、生きてるぞって感じで頭をあげてアピール。するとおばさんが買い物袋からなにやらとりだしてきて、あたしをテーブルの上に置いて、口元になにか近づけてきた。
大仕事を終えて、すっかりお腹がすいていたから、あたしは思わず食いついて一口、おいしさをまず味わって一呼吸。そうして両腕を伸ばして抱え込んだのよね。これまでは虫だの蜘蛛だの、ゲテモノばかり食べてきたあたしには、もう初めての珍味。あたしは夢中でそいつを食べながら、長生きするのも悪くないって思ったのね。
ここんちの玄関前で寒さに固まってしまっていたあたしを、おじさんが中に入れてくれたんだけど、それがあたしにとってよかったのか悪かったのか、わかんないけどさ、とりあえずうまいものをたべられるってのは、やっぱりいいもんだなあ・・・。おばさんがくれる生鮭の味、くせになっちゃったわけ。まあ、ハムも好きだけどね。
そしてあたしは、食べ終わるとひなたぼっこするのよ。こうやって、うんと手足を伸ばして。嫌われがちなカマキリにも、まさか最後にこんなことが待ってたなんてね、捨てたもんじゃないわよね。寒さに負けそうになってたときに、諦めないでよかったあ。