ときどき、まる子は富士山をみる。
向こうに見えるのは駿河湾をはさんで伊豆半島。
まる子は食事を終えると、あづま屋へ向かう私のあとをついてくる。そうして、瞑想を始める私の足許で、寝ころがったりぼんやりと下界をみおろしたり。決して私の邪魔をしない。そっちがそうなら、あたしも勝手にするわと言いたげに。
ふっと目をあけるとこんなふうに私をじっとのぞき込んでいたり、寝そべっていたりする。
そうかと思えば、どういうときにか、帰ろうとする私のあとを追ってくることもあって、坂道をおりる私の後ろをついてくる。まるで、怒らないでね、と言いたげにそっとついてくる。それで私は何度も行きつ戻りつして、ついにまる子が座りこむまでつきあうことにする。あたりが真っ暗になるときもある。
そうしてくたびれたまる子が、坂の上から私の背中をみつめているのを感じながら帰るのだが、そんなときは、なんだか、好きな女を残して家へ帰る男の気持って、こんなふうなのだろうかと思ってしまう。