雪ときどき晴れ

*******山形にいたころ*******

暑いので、雪の話をまた。

雪の季節が近づくと、人々は、庭の木の雪囲いをする。私たち夫婦も近所の人たちのやりかたをまねて、木々の囲いをした。まわりで遊ぶ猫たちは、雪囲いもたちまち遊び道具にしてしまう。なんだか笑えてきて、寒さにかじかむ手で縄を結ぶ辛さも消える。

雪はひとたび降りだすと、きりもなく続いた。厚い雪雲は、もうずっと消えないのではないかと思うほどに重く垂れさがったままで、人々は、降りしきる雪にかすみながら日に何度も雪かきをする。横なぐりの雪が降るときは、頬にあたって痛い。喜んで自由に歩き回るのは猫だけだ。


ある日、プリンが朝でかけたまま、帰ってこないことがあった。探しに出ると、裏の林へと続く水路の両脇にも高く積もった雪があり、そこに猫の爪痕が残っていた。水路に落ちてしまったのだろうか。焦った。腰まである雪のなか、足を取られながら水路を辿ってみたが、途中で暗渠になっていた。日が暮れそうになっても手掛かりはなく、諦めかけていたそのとき、かすかに、かぼそい声がした。プリンだ、裏の林のほうだ。とっさにマロンが飛び出し、私が続いた。林の奥で、プリンはうずくまり、ウサギのように真っ白になって動けなくなっていた。

そんなめにあっても、懲りずに、翌朝はまた、二匹で外に出かけて行く。
日中、気温があがるときには、屋根に積もっていた雪が、轟音とともに落ちてくる。だから屋根の下を歩くときには、つねに、上を見ながら歩かなくてはいけない。そして、夜になると、また気温が下がり、すべてのものが凍りつく。ときおり、裏の林から、樹木の幹が裂ける音が響いてくる。樹液が凍って膨らむために、幹が裂ける音は、鋭くて、悲鳴のようにも聞こえる。

けれど、ある朝、ふいに明るい光とともに、雪は終わりの気配をみせる。光の朝だ。
そうして、雪と光は交互にやってきて、やがて雪の嵩は減っていく。裏の林にも、猫たちは自由に行けるようになる。雪は、木の根元から融けていく。


待って待って、待ち望んでいた光の季節は、人々をさんざんじらしたあげくに、ようやくひょいとあらわれる。

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