*******山形にいたころ*******
猫は花に囲まれているのが好きである。
陽気がいい季節には、猫たちはほとんど外に出たきりだ。腹がすくと帰ってきて、またすぐに出て行く。暑いときは、裏の林の中が涼しいらしい。黒猫のプリンは、花や草にまぎれて寝ているらしく、夜遅くになっても帰ってこない。戸締りをする前に懐中電灯を照らし、林の中に向けると、小さな光るものに出会う。猫の眼だ。帰っといで、と声をかけると、暗闇の中に小さく光る眼だけが浮かびあがり、それは、そろそろとこっちに向かって近づいてくる。
そして、オス猫のマロンはよく旅に出た。たいていは、二、三日で帰ってくるはずが、五日ほどたっても帰ってこないことがあった。猫ダチのねこちゃんに相談をし、捜索のビラを作ることにして、写真を選んでいると、マロンはふいに、そしらぬ顔で帰ってきた。腹がすいているふうでもなく、汚れてもいない。そんなことが、それからも何度かあった。別宅でもこしらえていたのか。マロンはモテるのか、近くの家のマリちゃんという美猫の家にもときおり遊びに行っていた。そんなときには、プリンが少しあわれに思えてくる。
それで私はついつい、プリンに肩入れしてしまう。不細工な顔だが、体毛がぬめるように黒く、そして柔らかい。体ももっちりしていて、抱き心地がいいのだ。卵の配達がてらコーヒーを飲んでいくヨシさんや、猫ダチの猫ちゃんや、ジャランのおじさんなどと話していても、私の膝の上なんかでリラックスしている。
私たち夫婦は、移住して八年たっても、あいかわらずよそ者といわれてはいたが、ヨシさんの話によると、世の中を変えていくのは、たいてい、若者、よそ者、馬鹿者だそうだ。世の中を変えていこうなんて気はさらさらないけれど、まあいいか、と私は、たいていのことなら、なんでも受け入れることにしていた。
猫の世界も、みためほどには気楽ではなさそうで、マロンは、ほかのオス猫との戦いの日々。組んずほぐれつ揉みあっったまま転げまわり、水路にはまったり、血を流して帰ってきたりした。それをみて、プリンはいつもていねいに舐めてやった。