*******山形にいたころ*******
猫が涙を舐めてくれるとは・・・。
猫は、外からいろんなものを持ち帰ってくる。それが蛇であろうと、モグラやネズミであろうと、家の中へくわえてきて、放す。そして、遊ぶ。座敷のテーブルの下で蛇が体をくねらせているなんてことは、一度や二度ではない。マロンが持ち帰ってくるものは多彩だった。
蛇、鳩、鯉などだ。蛇は初めのころはとても大きくて手に負えないほどだったが、年をへるにつれて、しだいに小さいものに変わった。きっと戦える自分の力を知っていたのだろう。
これはかなり小さいほう
どれどれ、なあに、という顔でプリンも寄ってくる。
そして、二匹でいじくり、飽きるとまた新しい獲物を探しに行く。後始末をするのは結局のところ、私ということになり、日々、その繰り返しである。
ひがな一日、ハンターたちは狩猟に夢中である。ある日、マロンが大きな鯉をくわえてきたことがあった。きっと、近くにある豪邸の池の鯉だ。マリちゃんという美猫がいる。マロンはそこの庭に入り浸っていたのだ。
あわててマロンの背中を叩くと、鯉を口から離した。その隙にとりあげ、裏の水路にこっそり流した。そしてつぎは、鳩。町内会の長の家で飼っている鳩。ふえすぎて糞害が近所の問題になっていた。鳩の死骸はなんとか片付けたが、庭に散った羽がそこらじゅうに舞い上がり、往生した。
一方、プリンは、ネズミやモグラをくわえてきては、、そのまま階段をかけあがり、一番上の段から放す。捕まえられたものたちは必死に逃げまどうが、プリンは、それをサッカーボールのように小突き、上から一段ずつ落していく。眼をそむけずにはいられない。
猫の口に銜えられた小鳥の眼をみるときは、いつも胸を突かれた。もがいたあと、ついに諦めるときの、その小さな眼は、遠く彼方をみるように澄んでいる。助けたところで、飛べなくなった鳥は生きにくい。始末をするときは、その生きものたちに詫びた。子猫のときはあんなにかわいかったのにと・・・。
けれど、私が落ち込んでいると、二匹はしらぬまにそばにきてスリスリする。涙を流していると、プリンは私の頬に流れる涙を舐めてくれた。猫には、天使と悪魔が共存する。