坂道のドングリ
いつものように坂を上り始めていたら、坂の上から降りてくる顔なじみの人が、まる子がさらわれそうになっていたと言う。
上のほうで、まる子のそばにいた男が、まる子を抱きかかえ、そのまま坂をおりようとしたら、まる子が腕から逃げて飛び降り、するとその男は、なにか声をあげて追いかけたのだという。まる子は崖の草むらに逃げ込んで、男は諦めて立ち去ったのだそうだ。
話を聞いて、あわてて坂道を登って行くと、まる子が途中の草むらから出てきて、怯えた声をあげた。おいで、だいじょうぶだよ、というと、すぐにまたご機嫌になって、一緒に上まで歩いた。
餌を食べているときのまる子の様子をみていると、意外にも落ちついていた。これまでは、いつも丘の上で二匹で待っていたが、このごろのまる子は途中の草むらにいることが多い。なぜだろう。
これまでどおり丘の上にいたチビのほうは、誰かから餌をもらったらしく、ほとんど食べなかった。餌を食べおえたまる子がリュックによりかかり、まったりしていると、いつものように、モカが近づいてくる。
まる子、すかさず臨戦態勢。なおも、モカが近づいてくると、前に出てシャーッと威嚇。モカ、思わず、後ずさる。
遊びたくて近づいてくるモカは、またしょんぼりと、まる子を振り返り、振り返り、帰っていく。
そんなまる子とモカの攻防をよそに、チビのほうは草むらの中でのんびり。昨日の台風のときにはずぶ濡れで出てきたチビ。雨をしのげる場所にいるはずのまる子のもとへ誘導しようとしたが、うまくいかなかった。今日は台風も遠のき、晴れていて、とても気持がよさそうだ。 「お前ももう一人前のオスなのだから、いつまでもまる子を頼ってないで、いっちょまえのオスになりなよ」。そう言うと、チビは、わかってるよう、と言いたげに、ニャと、小さな声をあげて、草のしとねの中でうとうとする。こんなおだやかな時間が続くといいね。今日はいろいろ騒がしかった。まる子を連れていこうとしたかもしれない人は、ちゃんと飼う気があるのだろうか。いたずら半分で連れて行こうとしたのだろうか。臆病なチビは逃げ足が速いが、まる子は太りすぎて動きがにぶい。これからが思いやられる。野良猫にだって、それなりに生きる権利があるはずだ。「おれたちにだって、明日はある!」だよね。