月の砂漠

夕方、丘の上で聞く「月の砂漠」は、少しものがなしい。

5時に市内に流れる曲。ゆったりと砂漠を行くような曲調が下の町から聞こえてくるころ、猫たちは夕食どきだ。暑さにだれているのは猫も同じ。日が陰ったところの地面は少しひんやりしているのかもしれない。よくそこで寝転がっているのは、まる子。

       そして、草むらから出て駆けてくるのがチビ。

ちょうどそのころ、モカという名前の犬も、丘の上まで散歩にやってくる。すると、それまでのったりしていたまる子が、急にシャキッとして目つきが変わる。

 あれっ、うるさいのがまたきたわ。ったく、うざいやつ。

  一方、犬のモカはといえば、ルンルンという感じで近寄ってくる。

モカは、チビまる子に近づきたくてしょうがないのだ。まだ2歳だそうで、好奇心が旺盛。

まる子は、体を低くして、臨戦態勢。それでもモカは、毎日、ゲームのようにして、近づいてくる。あんがい、この攻防を楽しんでいるのかもしれない。          ねえ、遊ぼうってば!

     われ、なめとんのか、きたら手加減しないよ。

まる子の目力は半端ない。モカが近づきすぎると我慢の限界がきて、「フウッー」と威嚇する。するとモカは、すごすごとあとずさり、帰ることにする。体はまる子よりずっと大きいのに、いつもモカの方が迫力負け。

     あああ、またフラれちゃった。さびしいな。

夕方、ウォーキングにやってくる人たちは、チビまる子のことを気にかけたり、無関心だったり、いやな顔を向けたりと、いろいろ。二年近くも通っていると、顔なじみになって、話をする人も出てくる。けれど、名前をなのるほどの間柄でもない。それでも、ちらりちらりと、話のなかに、しあわせや悩みが見え隠れする。みんな、それぞれの「月の砂漠」を越えてきた旅人のように思えてくる。

誰かと話しているうちに、うたたねをはじめている猫たち。眠っているまにそっと帰ってこようとするが、ノラの彼らは些細な音にも敏感で、やっぱり眼をさます。富士山はこの季節、なかなかその姿をあらわしてはくれない。