いつもののように古墳の丘へ続く坂道を歩いていると、異様な声が聞こえてきた。怒鳴り声である。初めは、そばで工事をしている人たちの荒っぽい掛け声かと思ったが、どうも違う。いったいなんだろうとあたりを見回しながら歩いて行くと、怒声は前からで、みると、中年の男女が手を繋いで歩いている。
秋の空に伸びる。
まさか、あの人たち? 手を繋いで歩きながら怒鳴るかな?
それでちょっと速足で近づいてみた。すると、やはり、手を繋いで歩く女性の方が怒鳴り散らしているのであった。それも怒涛のような連発。「てめえ・・・」「おめえはよう・・・死ぬしかないな」そのあまりの迫力に、そばで働く工事の作業員たちも彼らのほうをみている。
だが、女性はなりふりかまわず、隣りの男性に荒らくれた言葉を浴びせつづけ、二人は坂を上って行くのだ。なのに、なぜか繋いでいる手は離さない。
ちょっと色っぽい花です。
怒声がしなければ、仲のよさそうな中年のカップルである。不思議なのは、男性のほうはどれほど罵られても何一つ受け答えせず、ただ黙々と歩いていることだ。手を振りほどくこともなく、むしろ歩調をあわせている。
追い抜くのもなんだか気まずい。しばらく後ろを歩いていたのだが、後をつけているような気分になってきて、途中で離れた。
お日様が好きなの。
坂道の脇に咲く花々をみながら登り、古墳のところでちびまる子に餌をやるときにはもう、その人たちのことは頭のなかから離れていたが、しばらくすると、そのカップルはまた手を繋いだまま戻ってきた。
おれたちはいつだって、いい関係なんだニャ
先に食べ終わったまる子が石のそばで寝転んでいるのを、二人はちらっとみて、相変わらず手を繋いだまま、なにか喋べりながら通り過ぎて行った。
今度は男性のほうも喋っていて、しかも二人の様子は坂道をのぼっているときとは一変し、和やかな雰囲気に変わっていた。ほほえみすら浮かべている。坂を上り始めてからせいぜい20分か30分くらいのできごと。二人を取り巻く空気は、そのあいだにがらりと変わっていた。
仲良しのハートっぽい形
さっきのあれはなに? この変りようはなに? あっけにとられながら、去って行く二人の後ろ姿をみつめていた。
女性の不満は、大爆発したことでおさまったのだろうか。内に溜まっていたマグマが流れ出てすっきりしたのか。
ツンデレ?
他人から見れば異様でも、二人にとっては長年繰り返されてきた行事のようなものかもしれない。手を繋ぎながら罵る女と、その嵐がおさまるのを表情も変えずに待っている男。ドラマの一場面に出くわしたようで、生きていれば、いろんな人に出会うなあと思いながら、坂道をくだった。
坂の下には、明かりちらちら。あすこにもここにもきっと男と女の不思議があるんだろうな。帰ったら、パートナーに少しやさしくしよう。私の中にもマグマはないこともないが、休火山だし。
甘えたり、甘えられたり