しあわせの言葉

古墳の丘の上、夕刻の西の空に、かすかに虹が立ち上がった。おおっと思いながら眺めていると、そばをいつもの仲良しご夫婦が通った。

「ほら、虹が出てる」と声をかけると、「ええ、みました。きっと幸せになりますよ」とにこにこしながら、奥さん。クリスマスイブのときにも、歩きながら「メリークリスマス!」と声をかけてくれたっけ。あれもうれしかったな。とても素敵な人だ。

ほんの一瞬の虹。すぐに消えてしまったが、「幸せになりますよ」という言葉は消えなかった。そう言われると本当に心が温かくなって幸せな気分になってくる。

言霊というものがあるということは知っていたが、それほど気にしたことはなかった。でもたしかにあるんだなあって、実感した夕暮れだった。そして、思いがけなく、こんな貼り紙も。まる子たちにいつも餌をやっている石の近くに貼ってあった。

こちらも、うれしかった。どなたが作って貼ってくださったのかわからないが、胸が熱くなった。ここに何度も何度も、「無責任に餌をやるのはやめてほしい」という貼り紙をし、そのたびにすぐに剥がされ、結局は諦めて、太りすぎのまる子をみてはためいきをついていた。その空しさがすっと軽くなった。かげながら見てくださっている人もいるのだと。

そしてきょうは坂道の途中の梅の木に一輪の花が。今年ももうじき梅の季節がやってくる。

昨年のことだ。折れた梅の枝を抱え、笑顔で「こんなに花がついてるんだから家に持ってって生けるのよ」と言っていたほがらかな人を、今年はみない。どうも体の調子をくずしてしまったようだ。ふっとさびしさがわいてくる。きのうはなにげなく話した人と、いつからか会うこともなくなる。ここではよくあることだ。だから、出会いを大切に思うようになった。

まだ明るい空には上弦の月、地上には野の花。

犬が通ると、二匹して臨戦態勢。でも私がそばにいるときは逃げない。安心しているようだ。

帰り道、まる子はよくここから坂道をみおろしてはお見送り。だいじょうぶだよ、またあした。幸せになる虹を、また一緒にみようね。

 

 

 

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