ナナのしあわせ

丘へと上って行く坂道に入るあたりで、いつもギャアギャアと鳴きわめいている猫がいた。姫やまる子のように人目を引く猫ではない。だから、あまり顧みられることもない。以前から、ふらりとやってきたり、またふらりといなくなったりする猫。

そのせいか、餌やりボランティアの担当からも外れていて、いわば、はぐれ猫のような存在。気にかけてもらったり名前を呼ばれたりすることもないから、黙って引っ込んでいると餌にありつけない。それでギャアギャア騒いで、気をひこうとする。そういうわけで、「あの、ギャアギャア猫、また騒いでるよ」と誰彼となく言っていた。

あまりに騒ぐので餌をやると、この猫は、意外に愛情表現が豊か。すりすりしたり、頭突きをしたり。うれしさ全開という態度をみせる。3年半も通いつめているチビまる子よりも、よほどサービスがいい。

はぐれ猫とはいえ、いくらなんでも「あのギャアギャア猫」ではなあと思い、そろそろ名前を考えてやろうと思っていたところ、思いがけなく、名前をつけてくれる人が現れた。

ナナという名前。名前を考えてくれた方はメスだと思っていたらしい。かわいい名前だ。それで、「あのギャアギャア猫」は、ナナに昇格。そして最近、ナナはむやみに騒がなくなった。

きっと、自分のことを気にかけてくれる人があらわれて気持も落ち着いたのだろう。人間だって、自分のことを気にかけてくれる人の存在はうれしいものだ。

公園にくる途中、三毛子はひなたぼっこをしていた。私がつけた名前は、なんとありきたりなことだろうか。

坂にのぼる途中で、これまた、しあわせなワンコをみかけた。なんと、この急坂をこの手押し車で上って行き、おりてきたところだという。

ラブラドールだから、とても大きい。それを載せたワゴンを押して丘の上まであがり、降りてくるのは大変そうだし、危険だ。でも、飼い主さんは、あまり具合がよくないワンコに、いい景色をみせてやり、いい空気を感じてほしかったのだという。ラブちゃん、きっとしあわせな余生だろうな。

きょうのまる子はしっぽの先までごきげんだった。そんなまる子を見ると、こちらもごきげんになる。少し暖かくなって風が気持ちいいのだろう。

チビはあいかわらず、マイペース。スリスリも、頭突きもない。それが個性だからしかたないが、ちょっとさびしい。人間もそうだけど、ナナのように愛情表現はちゃんとしたほうが、相手もしあわせになるんだけどなあ・・・。

 

 

 

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